イ草はどれも同じと思っていませんか?
イ草にはどんな種類があるのですか?
イ草は国産と外国産(主に中国産)があり、同じ国産のイ草でも実はたくさんの品種があります。大きくは品種改良を重ねた新しい品種と在来種の特徴を色濃く残す昔からの品種に分けられます。
国産と外国産の割合は?
国産が10~20%、外国産が80%~90%です。
国産の新しい品種と昔からの品種の割合は?
国産表のほとんどは新しい品種で作られていて、昔からの品種を栽培する農家は日本でも数件しかありません。ちなみに高知県では野村和仁さんの1軒のみとなってしまいました。
それぞれどんな特徴があるのですか?
新しい品種…緑色が鮮やかで一本一本の線が細いのが特徴です。畳表にする際には多くの本数が必要となるため目が詰まり見た目が美しく仕上がります。
昔からの品種…表皮が厚く灯芯もしっかり詰まっているため一本一本太いのが特徴です。とにかく丈夫なので長年使え、優れた畳だけが味わうことのできる黄金色への変化も楽しめます。
それぞれのマイナスポイントを教えて下さい。
新しい品種…昔からの品種に比べると耐久性が劣ります。
昔からの品種…緑色の鮮やかさでは新しい品種に劣ります。
和紙やビニールで作られた畳表もありますよね。
それらはあくまでも紙やビニールで畳風に作られた単なる敷物です。日本農林規格では『畳表はイ草で作られたもの』と定義されており、誤解を与える表記が後を絶ちません。紙やビニールの敷物はカビの予防や表替えの手間が省けるといったコンセプトを元に作られましたが、畳本来の効果や機能(下記「イ草と畳の効果」参照)の多くが期待できません。
野村和仁さんの畳表を敷きたいのですがどうすればいいですか?
じゃぱかるにご連絡いただくのが一番確実ですが、畳店や工務店に直接ご相談されても構いません。ただし、土佐市には同じ野村の姓で別のイ草農家(兼畳卸店)があります。そちらは『龍馬表』のブランドで畳表を販売されていますが、野村和仁氏の畳表とはイ草の品種、品質など全く異なりますのでお間違い無いようご注意ください。
畳のある暮らしをしたいけど部屋に畳がないのです。どうしたらいいですか?
ゴザをお試し下さい。じゃぱかるの「WAGOZA」は野村和仁さんが栽培する品種の中でも特に在来種の遺伝子を色濃く残す「岡山3号」と言われるイ草を使用しています。じゃぱかるが自信を持ってお勧めするゴザです。
すごいぞ!イ草と畳のチカラ
吸放湿作用
畳は一畳で約500㏄もの水分を吸収します。乾燥した日は蓄えた水分を放出し、お部屋を快適な湿度に整えます。
空気清浄作用
畳は空気中に浮遊する二酸化窒素やダイオキシンなどの有害物質(ホルムアルデヒド)を吸着します。家の空間を浄化するとともにシックハウス症候群の予防にもつながります。
抗菌作用
水虫や0-157、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌などの細菌に対し抗菌作用があります。特に水虫は床を介して感染が広がるため感染予防ができます。
リラックス効果
イ草の香りには森林浴と同じようなリラクゼーション効果があり、精神を落ち着かせてくれます。
消臭作用
汗腺や皮脂腺からのアンモニア臭や特に足の臭いの元となるイソ吉草酸を9割近くも消臭します。
吸音性
フローリングの部屋に比べ物音の大きさは約半分。足音が気になりません。
弾力性
小さなお子さんやお年寄の足・腰・膝を守ってくれます。転んでも安心。
断熱性
冬は室内の温かい空気を外へ逃がさず、夏は高温の外気を防ぎます。
集中力持続効果
畳の部屋では集中力が持続し成績が向上するということが実験で証明されています。
*2007年 北九州立大学森田准教授(著書:いぐさのすべて)による
安眠効果
イ草の香りが睡眠効率を高めることが実験で証明されています。
*2019年 九州大学清水邦義准教授らの研究グループ発表
癒しの色
畳の穏やかな緑色は日本人にとって安心感をもたらす癒しの色です。また、目にも優しいので自宅にいることが多い高齢者の目にとって負担が少ないと言われています。長年かけて変化するベージュ色も同じ効果があります。
※これらの効果はイ草や藁を使った天然素材で作られた畳によるものです。
畳が育む暮らしと文化
◆ 畳が育む日本人らしさ
ちゃぶ台を置けば食卓に、布団を敷けば寝室に、座布団を置けば客間に、日本では1日のうちでも同じ場所を違った空間に変化させます。また、畳替えや表替えをすることで定期的に新鮮な空間が生まれます。こうしたメリハリのある暮らしは日本人の体や心に良い影響をもたらしてきました。
また靴を脱ぐ、縁(ヘリ)を踏まずに歩く、正座するといった緊張感のある所作や振る舞いは日本人独特の美意識である「わびさび」の世界観を築き、日本人は長生きで頭が良い、我慢強い、繊細、勤勉で努力家、礼儀正しい、秩序を重んじる、他人を思いやるなど世界が認める国民性を育んできました。
◆ 畳は伝統文化と密接な関係
日本の伝統文化の多くは畳と深く関係しています。作法や格式を重んじる茶道・華道・香道・煎茶道・書道・着物・日本舞踊などにおける動作や振る舞いは畳を基本としており、柔道や合気道など勝敗より心技体を重んじる武道も畳の上で培われてきました。
日本特有の文化を未来に残していこうと考えた時、同じように畳も残さなければならないのです。
イ草農家
◆イ草農家の仕事
イ草農家の仕事は、イ草の苗割りに始まり、植え付け、先刈り、収穫、さらに泥染め、畳表の製織、乾燥までを行って出荷に至ります。
他の農産物と違って収穫すればすぐに出荷できるというわけではありません。
また植え付けは田んぼに氷が張る極寒の時期に、収穫はジリジリと陽が照る真夏に、そして泥にまみれながら泥染めし、土埃の中で畳表を織るという他の農業と比べてもかなり過酷な労働です。
先刈り
泥染め
製織
◆畳表の評価
畳表の市場価値は“見た目が美しい”ことが最重要項目です。
“見た目が美しい”とは緑色が濃く色ムラが少ないこと、目が均等に詰まっていて隙間がない状態を言います。
イ草は青ネギのように先端が細く、色は根に近づくほど白くなります。畳は寸法が決まっているのでイ草が長ければその先端と根元をカットできることになります。
“見た目が美しい”畳表を作るためにはイ草の長さが重要ということです。市場ではイ草の長さによりランクが設けられ、長いイ草で織られている畳表ほど高値になります。
◆イ草の品種改良
労働の過酷さ、市場の評価からイ草の品種改良や農薬、土壌の研究は「農家の負担を軽くすること」かつ、「長く成長するイ草」を目的に、弱い土壌や悪天候でも安定して収量が見込める成長力の高いイ草を目指して進められています。
◆畳の価値
高知県土佐市のイ草農家である野村和仁氏が栽培するイ草の品種は「岡山3号」と「せとなみ」です。高知県の最盛期であった昭和40年頃、2500軒以上あったイ草農家のほとんどがこの品種を栽培していました。当時はその品質の高さから畳表ブランドの頂点に君臨する”備後表”の増量材としても利用され『青いダイヤモンド』と称されていました。それらで織られた『土佐表』は20年以上も使える優れた”耐久性”と、畳の重要な評価基準である”色の変化”(畳独特の美しい黄金色への変化)において高い評価を得ていました。
しかしながら一般住宅のフローリング化による需要の低下など時代の変化に伴って畳表の評価基準は徐々に変化していき、高知県においても多くのイ草農家が品種改良された”見た目の美しい”新種のイ草へと移って行きました。
そんな中、野村和仁氏とその父和樹氏は「新種では畳表の最も重要な耐久性が維持できない。畳は長く使えるものでなければならない。本来の良さを失えば畳は信用をなくし、産地が産地でいられなくなる」と仲間に訴え続けてきました。
その想いは現在も色褪せることがなく、昨今の気候変動や異常気象により年々栽培すること自体が難しくなっている昔からの品種をガンとして変えることなく、徹底した管理と品質の維持向上のための研究に励み、「お客さんを裏切れない、お客さんに満足してもらいたい」と語ります。
当時と変わらぬ品種「岡山3号」と「せとなみ」を栽培し“生粋”の『土佐表』を製造しているのは野村和仁氏の1軒のみとなってしまいました。
イ草農家に聞く[野村和仁]
Q.栽培が難しく、全国的にも今ではほとんど栽培されていない昔からの品種を扱っているのは何故ですか?
10年経っても擦れないで、使っているうちに光沢が出て、お客さんから「長持ちしたよ」っていう言葉を20年後に聞かせてもらいたいからです。
近年の気候変化もあって、イ草の栽培はより難しくなってきましたが、管理など色々改善できるところはあると思って努力しています。
Q.昔の土佐のイ草は備後表として売られていたと聞きました。
自分が若い時の土佐のイ草は備後の増量材として出荷されていて、備後ありきの土佐表という屈辱のような時代を送ってきた歴史があります。いつかは「土佐表」という名前で全国の方に認知してもらいたいという思いでやってきました。先日備後の視察にも行きましたが、生産量は激減していてこのままでは、「文化の備後」になってしまいます。それに代わることのできる商品は全国でも自分のイ草だけではないかと勝手に思っています。
Q.仕事に対する野村さんの信念を教えてください。
今の卸市場などは如何に青くて美しいかが畳表の最大の評価基準になっていますが、昔はどれだけ長持ちするかや使っているうちに光沢が出てきて綺麗な黄金色に変化するかが評価されていました。その時々のニーズに振り回されるような畳表ではなくて、後々「良かった」と言ってもらえる品づくりに打ち込んでいきたい。頑固な生き方と思うがお客さんを裏切ってはいけない。お客さんのお金の価値が生きるような品を提供したい。それが僕のイ草作り、畳表作りです。
◆ 愛媛県の畳店(野村和仁氏の父(和樹氏)の代から50年のお付き合い)
野村さんの土佐表はとにかく擦れない。丈夫。他のものとは全く違う。畳の命は強く丈夫であることだが10年くらい使ったところで何ともない。
特に人がよく使う場所では絶対に良い。例えば葬祭場だと着物で出入りし摺り足で歩くため毛羽立ちやすい。
そのうえ着物にクズがついたりすることは絶対にいけないが野村さんの畳表だとその心配がない。
野村さんは刈り取り一つにしても日数を数えて十分な実入りを待ってから刈っている。青い時期に刈れば見た目はきれいかも知れないが、実入りが十分でないからすぐに擦れるし弱い。
また、しっかり乾燥させてもいるので硬くて丈夫。
自分のした仕事は何十年経っても自分に返ってくるので、もう何十年も野村さんの畳表を使わせてもらっている。
畳の流通と販売の現実
イ草は中国産の輸入や住宅のフローリング化によって淘汰され衰退を迎えた産業ですが、原因はそれだけではありません。実はイ草や畳産業に携わる人たちの意識や手によって衰退を加速させた部分も大きいのです。
高度経済成長期時代、増え続ける畳の需要に国産のイ草だけでは対応できず、イ草の苗を中国に運んで栽培し、日本に輸出する事業が開始されました。
しかしながら、イ草の栽培は良い苗を使えば良いイ草が育つという簡単なものではありません。他の伝統産業と同様に、そこには知識、経験、技術、そして何より想いがなければ良いイ草は作れないのです。
結果として、イ草の命とも言われる灯芯(イ草の中に詰まっているスポンジ状のもの)部分が詰まっていないクッション性に欠ける硬い畳、表皮が弱く傷みやすいためすぐにささくれや毛羽立ちをおこす畳、イ草の色のばらつきを隠す、あるいはよく見せるために着色料で着色された畳、その着色料が皮膚や衣類に付き痒みや肌荒れを起こすなど安全性に問題がある畳が流通しました。
当然、消費者からはクレームが出てきます。
それを避けるために生まれたのが工業製品の畳(畳風の敷物)です。
「家を建て、欲しかった和室を作ったが畳の匂いが全くしない。なぜだろうと住宅メーカーに問い合わせたら『和紙でできた畳です。カビが生えないし虫もわきません。アレルギーの心配もありませんし、畳替えもしなくて済みます。』と説明された。」
私たちはこうした話を多くの方から聞きました。
畳店も住宅メーカーもクレームを避けることを優先して、イ草で織られていない工業製品の敷物を「畳ですよ」と言い、消費者に平等な情報を与え、選択させることなく備え付ける。そこにあるのは目先の利益が優先という自分だけを大事にした考え方です。
その極めつけが産地偽装です。
右の写真は斎藤商店という卸店から各畳店に配布されたチラシです。
そこには、イ草は高知県土佐市産で品種はせとなみであること。生産者は広島県福山市の藤田氏であることが記されています。
つまりこれは藤田氏が土佐のイ草を原草のまま仕入れて、自らが畳表に加工し、それを斎藤商店が販売するという内容のチラシです。
まず前述したとおり、高知県でせとなみを栽培しているのは野村和仁さんだけです。そして野村和仁さんはイ草を畳表に製織せずに原草のまま販売するということはしていません。
写真はじゃぱかると繋がりのある畳店から「こんなチラシが回ってきたけど本当?」という問い合わせをいただいた時の画像で、すぐに野村和仁さんに連絡を取ったのですが、すでに野村和仁さんにも別の畳店から同様の問い合わせがあり、さらにその畳店から畳表の現物も送ってもらっての事実確認も行われました。
結果は当然野村和仁さんのイ草ではないし、中国産のイ草である可能性が高いという結論でした。
この事項は令和2年現在も何の解決もされていません。
イ草は農産物でありながら敷物という工芸品であるため生産者や産地について食品ほどの厳しい規格がありません。H21年の全国イ草生産販売連合会の報告によると、「実際の国内産畳表の生産量が450万畳で総需要量1650万畳の27%であるのに対し、国内産畳表として流通したものは全体の52%であり、この25%のギャップから中国産が国内産として流通していることが否定できない」としています。
畳の未来
「これは国産の畳表です」と言われた時、私たち消費者はこの『国産』をどう解釈するでしょう。
・中国産のイ草を輸入してそれを国内で製織したものは「国産の畳表」
・国産イ草に中国産イ草を混ぜて製織したものは「国産の畳表」
『国産』とはどこで製織(製造)されたかを示すもので、イ草の生産地を示すものではない。
消費者が「国産の畳表」を指定しても使われたイ草の産地が本当に国内であるかどうか。それを真っ当に証明するシステムや基準を持っていないし、構築しようともしないのが現在の畳業界です。
技術と知識を持ち、経験と熱意を有した農家でも、過酷な労働の末に作った畳表がそうした「自称国産畳表」と同列に扱われ、価格競争に巻き込まれ、正当な評価も収入も得られなければイ草づくりを続けていくのは困難です。
結果国産の畳は価値を失い、それどころか畳への悪評を招き、産業が衰退していくことになったのです。
農家にとっても我々消費者にとっても何のプラスもないこの現状をどうすれば断ち切れるのでしょうか。
一つは私たち消費者が畳本来の価値を知ること。それを伝えていくこと。
近年のモノづくりにおいては付加価値やブランド化を重視する傾向にありますが、本当に伝えなければならないこと、まず初めに知ってもらわなければならないことはそのモノの本来の価値なのではないでしょうか。
畳の暮らしとはどんな暮らしか。畳の暮らしが人に与える影響とは何か。消費者に本当に伝えなければならないのはそうした畳本来の価値であり、備後表や八代産、京畳といったブランド価値はあくまで「その次の情報」なのです。
もう一つはこの状況を生み出した根元的原因を排除すること。
資本主義による利益追求はモノづくりにおける競争を生み出し、それは消費者により快適で豊かな暮らしをもたらす循環システムとなるはずでしたが、現実にはモノづくりそのものではなく、売り方、見せ方、騙し方に注力し、そうして利益を生み出す人が優れた人であるとして本当に価値のあるモノやヒトを失っていくという現象を招いてしまいました。
利益追求というシステムが現況の根元的原因であるなら、私たちは欲に勝てず、資本主義をうまく扱うことができない存在であることを認め、それを前提とした利益追求(お金)に代わる新たな価値やシステムを創り出さなければいけないという差し迫った現実を迎えてしまっているのではないでしょうか。
このまま様々な業種や分野でこうした現象が続いていけば、私たちが求める本質的に豊かな暮らしや社会からは離れていくだけの未来になってしまいます。